技術の伝承
もうすぐ団塊の世代が一斉に定年を迎えることになり、各企業では技術の伝承を
計る為、来年の高校卒の採用を増やす計画であるとの報道がなされていました。
一人前の技術者(技能者)を育てるには長い年月が掛かるものであり、企業が採用を
増やしてその対策を取り始めたのは当然のことであると思います。

技術は理論と経験の両方を併せたものだと思っています。技術の基には理論があり
理論計算で答えが出るものもありますが、技術上で解決せねばならない問題は理論計算
だけでは答えが出ないものが多いのが実状です。
生産設備を設計するにも、個々の取り扱う対象物について実験をして、そのデータを
基に行うことが普通の手法になっています。

私の専門分野である化学工学のなかで粉体を扱うことが多くありますが、ここには
粉体工学という一つの分野ができています。粉体は扱い難い物の一つで、粉の形が
違えば現れる現象が全く違ったものになります。
家庭で取り扱う粉状や粒条のものでも、メリケン粉、片栗粉、そば粉、砂糖、塩など
いろいろありますが、それが湿っているか乾いているかなどの状況も含めて、容器を
傾けて取り出す場合、サラサラと流れ出るか塊で落ちるかなど、如何に状況が違うかは
経験されているでしょう。
既にデータのある物質以外は、粉の形を顕微鏡で見ただけで、その粉体を扱う装置を
設計出来るところまではいっていません。勿論粉の形を見れば過去のデータから
取り扱いが難しいかどうかなどの判断は出来ますが、具体的な設計には粉体特性(粉が
さらさらしているかなどの性質を数値化したもの)といわれるものを測定してから、
それをベースに行うことになります。即ち粉体特性が分かればどう設計したらよいかは
ある程度分かりますが、最適設計のためには各社のノウハウに拠る所がさらに重要になり
ます。

粉の取り扱いの例で書きましたが、技術の分野では個々の経験データの積み重ねから、
それを体系化、一般化して他への応用が出来るようにする所に、各企業の技術力が
あります。またノウハウと言われるところの経験技術の積み重ねをすることも大切で、
そんな技術力をきっちりと伝承出来ているかどうかが、其の会社が評価されるかどうかの
分かれ道になります。

私の経験で、全く同じ原料を使用してある繊維製品を開発していた会社が二つあって、
一社は製品化に成功して工業化が出来ましたが、他社はどうしても成功しなかった例が
あります。
成功した会社は繊維が専門の企業で、いろんな繊維製品を開発した経験豊富な技術者が
いて、特種の繊維製品を製造するための技術力の蓄積があったが、成功しなかった会社は
繊維技術の経験が少なかったのがそんな結果に結びついたものと思っています。
新しい技術、製品開発の基になる創造力も多くの経験の積み重ねから育てられるでしょう。

一つの会社が専門性をもって、この分野ではあの会社だと言われるためには、普段から
その会社の固有技術を若い技術者に教え育てていくことが必要です。
先に技術は理論と経験を併せたものだと書きましたが、理論は専門書に書いてありますが
経験は自分で身につけなければなりません。個人の経験だけを頼っても時間が掛かる上に、
同じ事を経験するかどうかも分かりません。従って先輩が経験を体系化して教えることで、
若い人に多くの経験をさせたと同じ効果をあげることが、企業の固有の技術力を高める
ことになります。先に「JR事故に思う」に書いた失敗管理もそんな技術伝承の一つになる
でしょう。

団塊の世代の技術者が若い技術者にその会社特有の技術を旨く伝承されることを願って
いますし、それが先輩技術屋の責務でもあるでしょう。


ホームページに戻る                      2005.9.25.